推しが娘役のおっぱいを揉みしだいている(『ドクトル・ジバゴ』感想)
※この記事は2018年秋頃に書き始めて2019年1月に書き終わったものです。
推しが女優さんのおっぱいを揉みしだいているのを見たことがありますか。
舞台の上で、銀幕で、ブラウン管の中でそれはしばしば行われることです。
揉まれている側は「体当たりの演技」などと評されることもまああることです。
でもまさかタカラヅカでそんなことが…?しかも天寿光希さんが…?娘役の胸を?揉んで…?
いやそもそもすみれコードは大丈夫なのか。
娘役さんが食べ物を口に運ぶのはNGなのに男役に胸を揉まれるのはOKなのか。宝塚の倫理観が行方不明すぎる。と思っていたら気づいたら手元にジバゴのDVDがあったので見ました。
件のコマロフスキー、出てきた瞬間の胡散臭さがもう凄まじい。一声発しただけでこいつ下衆な男だ!ってわかる。
アマリヤ、ラーラ母娘どちらにも下心があるんだけど二人に対するスケベ心(笑)の種類が違うこともわかる。
アマリヤは既に手に入れてるからそれを反芻しているみたいなスケベさ。
「君もいないのに?」の飼い慣らした猫を片手で可愛がるみたいな台詞が秀逸で、ふたりの関係性がきっちり想像できる。
ラーラはこれからどう料理しようか頭の中でめちゃくちゃ妄想しててラーラの反応ひとつひとつをベッドの中に置き換えてるみたいな下心が出てる台詞回しだった。
そもそもラーラを呼ぶときの最初の音が完璧すぎる。ラーラはЛから始まるからLの発音。それがねちっこく嫌らしく伸び、舌先で名前すら弄んでいる。完璧。
ラーラににじりより耳を舐めるかってくらい(たぶんコマロフスキーの妄想の中では耳攻めしてる…!)の距離で囁き身体に手を回し胸を揉んでコマロフスキーの目が口が身体の全てがラーラとのセックスを想像しているのがわかる。
推しが娘役の胸を揉むなんてもんじゃなかった…。推しが「今すぐこの女とセックスしてやる」って男の顔をしていた…。
私は宝塚の男役の魅力って、どんなに色っぽくオラオラしていても女性にとって身体的に脅威ではないところだと思ってた。
男性の身体をどうしても恐ろしく感じる瞬間があるんだけど、男役は女性であり男性の肉体を持っていないというだけで私にとっては絶対的な安心感があり、こころゆくまでうっとりとできたのだ。
そのはずなのに、天寿光希さんも女性の身体を持っているはずなのに、このシーンの恐ろしさは男性と対峙したときのそれだった。
「宝塚の男役」という前提を飛び越えてコマロフスキーを生きる天寿さんの演技を見て、この人がどんな役を演じていくのかずっと見ていたいと思った。
ナウオンで天寿さんはコマロフスキーのことを「悪い男だ」と言われたときにきっぱり否定していたのだけれどその通りで(というかその通りに見える演技プランで)、悪い生き方を楽しんでいる、悪く生きようとしている人ではないのだと思う。
ひたすら自分の生きやすいように生きたいだけで、そのために時代を読み、道を切り開く才覚に長けていただけ。
それが時代や他人から見れば悪人に写るのもじゅうじゅう承知だけれど知ったことではないし、正直な人なのだろう。
ただ、自分の欲望に正直に生きてきたからそれを叶える方法がわかるし手は打てるのだけれど、きっと自分の心をわかっているわけではないように見えた。
コマロフスキーは二度ラーラを逃そうとやってくるけれど、一度目はまだ下心があるしラーラを手に入れようとする欲で動いているようだけど、「私の言うことが何故わからん」と激昂する後ろに「お前を愛しているのに、救いたいのになぜわからないんだ!」という声が聞こえるような気がしてぞくぞくした。
コマロフスキー自身の自覚がないまま深層から漏れたような台詞だと思う。
ワルイキノへやってきたときは完全にラーラを救い出したい一心で動いていて、「だが時間がないんだ」に繋がる一連の台詞はすべて真実なのだと声の発し方からしてわかるのでユーリも共犯を買って出る。
ラーラがユーリと最後に抱擁するところは、コマロフスキーが促した左腕が宙ぶらりんのまま浮いていて、彼女に対する欲望や執着ははもうここに浮いたままになっていて、この先のコマロフスキーの人生は芝居では描かれないけど、貧しくはないけれど寂しいものだったのではないかなと思った。
ユーリはラーラを失ってしまった喪失感の捌け口を詩に求めることができたけど、コマロフスキーは何に求められたんだろう。
ラーラの姿は隣にあっても心は手に入らないし、ウラジオストクに着けばその姿さえも失ってしまった。
愛を手に入れられなかったコマロフスキーの姿を思うと天寿さんの言う「彼は悪人ではない」という認識がしっくりきて、その演技プランをきっちり客に伝えてくる力が本当に素晴らしい。
推しが女の子のおっぱいを揉むところを見たかっただけなのに圧倒的演技力に殴られて最高に幸せだった!
一幕は何度見ても怖くてはくはくしちゃうけど!でも好きな演目です。